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アンチワールド
Episode 8  希望

「十六番地区にて未確認生物反応あり!」
「市民の避難経路を確認、直ちにデータの送信とハンターの派遣を!」
「了解」

 
 トウキョーシティ各地に、いつものように鳴り響くサイレン。今では見慣れた|怪物《クリーチャー》に向かって、無数の銃弾や罵声が飛び交っている。それは朝晩構わずにやってくる。
 この世界に平穏はない。それでも、明日を信じて生きる人々が、今日もこの国で暮らしている。
 私は、あの日「死」を選んだ高層ビルの屋上に足を運んでいた――。


「……こちら美咲。避難誘導は完了。いつでも行ける」


 目の前に広がる夜景のなかに、重機のような音を立てて歩行する|怪物《クリーチャー》の姿が数体見える。今では日常的になったその光景を、私はじっと見つめる。


「美咲、こっちはいつでもオッケーだ」
「こちらも準備はできていますよ、いけますか? 美咲さん」
「オッケー。玲、スキャンデータ送って」
「了解しました。システムにデータを送信。確認お願いします」


 日々ニュースで流れてくる各地の被害状況。私たちハンターの数は、クリーチャーの出現に比べて圧倒的に少なく、被害は拡大する一方だ。


「……やるしか、ないよ」


 もうすぐ初春かという暖かで心地の良い、それでいてまだ少し肌寒さも感じる風が、私の長く伸びた髪を|靡《なび》かせる。風が頬を撫でるビルの屋上の|縁《ふち》に、私は足を掛けていた。やはり高いところは好きだ。


「じゃあ、行くよ」
「了解」

 


 この世界に生きる目的や希望はない――。


 それでも、明日を信じて生きる人々がいる。彼らは生きるために、私たちハンターの力を必要としている。それが私の生きる意味なんだと思う。この世界には生きる意味が無い人なんて、存在しないのかもしれない。


 自ら「死」を選択することが、必ずしも間違っているとは思わない。苦しみから解放されるための、苦肉の策だった場合もあるだろう。それでも、少し踏みとどまって、一歩外へ踏み出してみると、意外と自分を必要とする存在に出会うことがあるかもしれない。私がそうだったように。


 
 そんなことを考えながら、私はあの日と同じ、月明かりに照らされた夜景の海へと飛び込んだ。そっと目を閉じ、右手に意識を集中させる。


「|血戦の刃《ブラッディ・スラッシュ》、召喚――」


 ハンターとして戦い始めて三ヶ月ほど経った日の、深夜0時の出来事だ。

​― 完 ―
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