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アンチワールド
Episode 0  死

「僕ね、大きくなったらハンターになるんだ!」
「そう、それはどうして?」
「ハンターはとっても強いし、かっこいいんだよ!」
「そうだね、それじゃあ大きくなったら、先生たちのことも守ってくれる?」
「うん! 約束するよ!」
「そっか、ハンターになれるといいね」

 ***
 
「八番地区にて未確認生物反応あり!」
「市民の避難経路を確認、直ちにデータの送信とハンターの派遣を!」
「了解」

 
 トウキョーシティ各地に、けたたましい音で鳴り響くサイレン。まるで映画の中から出てきたような|怪物《クリーチャー》に向かって、無数の銃弾や罵声が飛び交っている。それは朝晩構わずにやってくる。
 この世界に平穏はない。すでに生きる目的や希望は見失った。
 気がつけば私は、夜風が少し肌寒い高層ビルの屋上に足を運んでいた――。


「燃えてる・・・・・・」


 目の前に広がる夜景。燃えさかる炎と緊急車両のパトライトが夜の街を赤く照らし、幻想的なコントラストを映し出している。その非日常的な光景は、美しいとさえ思えてしまう。


「今日は、どれくらいの人が死んだのだろう」


 日々ニュースで流れてくる各地の被害状況。経済は止まり、あの頃の日常は、今の日本にはもうない。高校の友人たちは、まだ生きているのだろうか。


「アタシが死んでも、ニュースには・・・・・・ならない、か」


 もうすぐ初秋かという季節の涼し気な風が、私の長く伸びた髪を|靡《なび》かせる。風が頬を撫でるビルの屋上の|縁《ふち》に、私は足を掛けていた。いくら高いところが好きとはいえ、自分でも驚くほどに平然と立っていることに、妙な違和感を覚えた。


「ああ、アタシ今から死ぬんだ」


 特に「死」に対する恐怖心は無い。が、この先に何が待っているのか。天国か地獄か。仮に地獄に落ちた場合、死んだあとも苦しい思いをするのはごめんだ。そんなどうでもいい感情をいだきながら、私は決心する。

 
 この世界に生きる目的や希望はない――。
 私はそっと目を閉じ、美しい輝きを放つ月と夜景の海に飛び込んだ。
 十六歳の誕生日を迎えた深夜0時の出来事だ。

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